SJS(Stevens-Johnson症候群)、TEN(中毒性表皮壊死症)、SSSS(ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群)は、CBTや医師国家試験で頻繁に問われる疾患である。
自分は重症型薬疹(SJS, TEN)とSSSSの鑑別に不自由していなかったが、友人に問われたため記事に起こした。
そもそもTENの診断基準にはSSSSのルールアウトが明記されているので、実臨床上も注意深い鑑別が必要と推察される。
確かに重症型薬疹とSSSSは
- 発熱
- 広範囲の表皮剥離
といった点で共通点が多い。
またTEN、SSSSはどちらもNikolsky現象が陽性なので、より紛らわしいかもしれない。
ただ実際のところ、試験においてこれらの鑑別は簡単である。
なぜならば重症型薬疹では服薬エピソードが問題文にあるはずだからである。
また今のところ私は、SSSSの問題で服薬エピソードのあるものを確認していない。
しかし質問してきた友人は「それだけで判断するのは危ない気がする」と言っていた。
それも一理あって、もしかしたら「SSSSだけど別疾患による治療で患児が薬剤を服用している」のような引っ掛け問題もあり得るし、「薬剤が原因でないSJS/TEN」が出題される可能性もある。
すると服薬エピソード以外の鑑別点を知っておくことは、より安全な受験につながるだろう。
ではまず疾患の特徴を個別にみていく。
SJS
多形紅斑が進展したものである。
症状:
粘膜や眼に病変をきたし、発熱・関節痛などの全身症状を伴う。
病因:
原因は薬剤・マイコプラズマ感染・ウイルス感染などであるが、突き止められない場合もある。
診断:
全身の紅斑に加え、粘膜病変、びらん・水疱、発熱があり、病理学的に表皮の壊死性変化があれば診断可能である。
治療:
ステロイドパルス、原因薬剤の中止、点眼ステロイド、涙液補充
TEN
多くはSJSから進展したものである。
症状:
高熱や全身倦怠感などの全身症状を伴って、粘膜病変および全身性の紅斑、びらんを生じる重篤な疾患である。Nikolsky現象陽性。
病因:
薬剤性が多い
診断:
SSSS、トキシックショック症候群、伝染性膿痂疹、急性汎発性発疹性膿疱症、自己免疫性水疱症を除外した上で、全身性の紅斑、体表面積の10%を超える水疱・びらん、発熱を認めれば診断できる。
治療:
高用量ステロイド内服、ステロイドパルス、原因薬物の中止、血漿交換、免疫グロブリン大量静注療法
SSSS
6歳までの乳幼児に好発する疾患である。成人で発症することもある。
症状:
発熱等の全身症状を伴い、全身に発赤・水疱・表皮剥離を生じる。目・鼻・口周囲・外陰部にも表皮剥離や痂皮をきたし、口囲の放射状亀裂は特徴的である。Nikolsky現象陽性。
病因:
ブドウ球菌が放出する表皮剥奪毒素が皮膚のデスモグレイン1を傷害することから皮膚病変を生じる。
診断:
特徴的な顔面症状、びらん、Nikolsky現象を認め、口腔粘膜に病変がないことなどから診断。
治療:
抗菌薬点滴静注、抗菌薬含有軟膏、保湿
重症型薬疹とSSSSの鑑別
以上から考えると、両者の明らかな鑑別点は「粘膜病変の有無」と言える。
理由は以下の二点に要約可能だ。
- SJS/TENでは粘膜病変が診断基準に含まれている(※)
- SSSSでは病態生理から考えてまず粘膜病変をきたさない
※SJSでは主要所見、TENでは副所見である。ただしTENにおいても、粘膜病変が必発することが想像される。
1点目に関しては、診断基準である以上絶対である。
2点目に関して解説を加える。
SSSSは黄色ブドウ球菌が放出する表皮剥奪毒素がデスモグレイン1を傷害する。
デスモグレイン1の障害といえば、もう一つ落葉状天疱瘡が挙げられる(こちらは自己抗体による障害)。
ではなぜSSSSと落葉状天疱瘡は粘膜病変をきたさないのか。
まず以下に図を示す。
清水宏『あたらしい皮膚科学』第3版 p.251、中山書店、2018年、より引用
図に示したように、粘膜ではデスモグレイン3が十分に発現している。
したがってデスモグレイン1が障害されても、粘膜へ病変をきたすことは考えにくいのである。
結論
試験における重症型薬疹とSSSSの鑑別は、まず「粘膜病変の有無」を考慮する。
すなわち、
- 粘膜病変あり→重症型薬疹
- 粘膜病変なし→SSSS
ということである。
その上で、
- SJS/TENは薬剤性が多い
- SSSSは6歳までの乳幼児に好発する
- SSSSでは特徴的な顔皮膚病変を示す
などの情報を補助的に考慮すれば、極めて安全に解答できると思われる。
ここまでくればもはや試験的にはオーバーキルな知識と言っても良さそうだ。
以上。
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