• Article
  • 陰キャの病理学

    posted at 2019年4月26日

    陰陽論では、柳の木は「陽」に分類されるらしい。

     

    一方幽霊は「陰」であり、柳の下に幽霊が出るのは陰陽のバランスを保つためだ、といわれている。

     

    このような例を始めとして、物事を陰陽に二分する思想は現代日本にも深く根付いている

     

    その一つの証明として、人間の性格を大胆にも「陰キャ」「陽キャ」に大別する思想が、若者を中心に台頭していることが挙げられるだろう。

     

    しかしながらこの「性格陰陽論」とでも呼ぶべき新興思想体系が、陰陽論の本来の中核思想から逸脱していることを私は看過できない。

     

    というのも、

     

    • 自らを「陰キャ」だと自虐する人口が増えてきたこと
    • 「陰キャ」を馬鹿にする人口も増えてきたこと

     

    といったことに対して、違和感をぬぐい去れないのである。

     

    そこで本記事では、まず陰陽論本来の思想がどのようなものであるかを説明する。

     

    次に「性格陰陽論」が陰陽論本来の思想から逸脱している可能性を指摘する。

     

    最後に「性格陰陽論」をめぐって、特定のコミュニティーが病的状態に陥っていると主張する。

     

     

     

    陰陽論の思想

    陰陽論を理解するには、以下の図が便利である(図1)

     


    (図1:黒は「陰」、白は「陽」を表す。両者は対等であり、円環的に変化しうることが表現されている。また陽の中にも陰の要素があり、その逆も言える)

     

    陰陽論は紀元前2000年以前から中国において信じられてきた、大きな哲学体系である。

     

    動的なものを「陽」、静的なものを「陰」と分類し、これを大きな対立概念として多方面に発展した。

     

    陰陽論では「陰」と「陽」はこの世を作ったり壊したりするのに必要な根源的な力と考えられている。

     

    そして「陰」と「陽」とは相対的で、優劣がないということも重要である。

     

    例えば、

     

    • AはBより「陽」である
    • BはCより「陽」である

     

    という二つの条件があったとする。

     

    論理学的にはこの条件から

     

    AはCより「陽」である

     

    と言いたくなるが、陰陽論においては必ずしもそうである必要はない。

     

    別にCがAよりも「陽」というケースも十分考えられる(参考文献1)。

     

    したがって「陰」と「陽」に優劣関係がないことは、陰陽論を理解する上で非常に大事な点といえる

     

     

    「性格陰陽論」が「陰陽論」から逸脱している可能性

    先ほど動的なものは「陽」であり、静的なものは「陰」である、と説明した。

     

    「性格陰陽論」においても、外向的で活発な傾向のある人を「陽キャ」、内向的で落ち着いた傾向のある人を「陰キャ」と分類している。

     

    まずこの点は陰陽論の観点からみても妥当な分類といえる。

     

    しかし前項で指摘した通り、「陰陽は相対的であり優劣がない」という点についてはどうだろうか?

     

    これを検討するためにはまず、「性格陰陽論」において「陽キャ」>「陰キャ」という優劣関係が根付いていることを証明しなければならない。

     

     

    「陽キャ」>「陰キャ」の図式

    少なくとも私の観測範囲内において、

     

    • 「陰キャ」を自虐する人
    • 「陰キャ」を揶揄する人

     

    のような「陰キャに対してマイナスイメージを持つ人」が一定数いる

     

    この観測が私の主観の領域を出て、一部分でも事実として認定される余地があるのならば、「陽キャ」>「陰キャ」の図式が存在すると言えるだろう。

     

    そこで独自にツイッターを用いた調査を行った。

     

    調査方法だが、2019/4/19 23:23より「陰キャ」という検索ワードでツイートを追跡し、新出15ツイートを抽出した。

    (ただしアカウント名に「陰キャ」が含まれているが、ツイート内容に含まれていないものは除外した)

     

    結果は以下である。

     

    独自ツイッター調査の結果

     

    1. 美味しいパンケーキ食べ行きたいーとか思ったけど、私そんなウェイしてなかった。陰キャだった。

    2. 陰キャ詐称のペリ兄さん大学の友達の人数だけ会開くって聞いてるから一生食費困らない計算だけど

    3. 一年越しに果たされる陰キャ原竜也

    4. しかもめっちゃアレな女、教えるのが上手ければ良いけどクソ陰キャな上に教えるの下手くそなんだよな

    5. 女子に免疫がない陰キャなので呼び捨てもちゃん付けもできません

    6. 前縛り陰キャ戦法は僕には向いてませんでした😇

    7. トレーニングルームでこもる陰キャになった

    8. 高くて美味しいそれすなわちインスタ映え😁 陽キャの餌じゃ! 僕みたいな陰キャはめったに食べれませんw

    9. 陰キャデブスバレるの怖いです

    10. 陰キャ陽キャのくくりというよりも、面白い話がしたいとか場の盛り上がりを重要視するみたいなタイプがダメだわ

    11. 現実では静かになるタイプ 陰キャです

    12. 陽キャの自己満に付き合わされてるのしょうもないし陰キャ帝国作りたい

    13. 質問箱に文句ぶつけてる時点でただのカス陰キャってことだよな

    14. これだから陰キャは

    15. でもうちのクラスに陰キャが多いからか、そいつ友達多いwwww

     

    これら15のツイートのうち、「陰キャ」に対してマイナスなニュアンスを持つものが7ツイート確認された。(基準は私の主観であるが、±1には収まるのではないだろうか)

     

    一部「陰キャ」と「陽キャ」の対等性を指摘するようなツイートもあるが(10)、少なくとも「陰キャ」 > 「陽キャ」という序列を自覚するツイートは観測されなかった。

     

    したがって、私の実体験に上記のツイッター調査を考慮しても、依然として「陽キャ」>「陰キャ」の図式が存在するといっても間違いはないだろう

     

    そしてこの図式は「性格陰陽論」の本流である可能性も否定できない。

     

     

     陰陽に優劣を見出す「性格陰陽論」は本来の陰陽論から逸脱している

    陰陽論において重要なことは「陰陽は相対的であり優劣がない」ことであった。

     

    しかし「性格陰陽論」では、「陽キャ」>「陰キャ」という優劣関係を、かなりの割合の人が是認していると考えられる。

     

    これは本来の陰陽論からの明らかな逸脱である。

     

    陰陽論の観点から考えれば「陰キャ」と「陽キャ」は相対的なものであり、そこに優劣は断じてない

     

    「陰キャ」と「陽キャ」はこの社会を創造し、破壊し、再び作り上げていくための根本的な要素である。

     

    二つの要素が同時に存在することで社会のバランスは保たれ、変革していけるのだ。

     

    したがって、本来の陰陽論から逸脱した「性格陰陽論」は、陰陽論の名前を借りた伝統哲学に対する冒涜、この社会のアンバランスを引き起こす危険思想である

     

     

    陰キャの病理

    前項で「性格陰陽論」がいかに逸脱した危険思想であることを述べた。

     

    しかし「性格陰陽論」を持つコミュニティーは、本来の陰陽論に軌道修正することが出来ない状態に陥っている。

     

    何故ならば、「性格陰陽論」をめぐって、それを了承するコミュニティー全体が丸ごと病的状態に陥っているからだ。

     

    この病態には以下の2つの要素が考えられる。

     

    • 陰キャを自虐する風潮
    • 陰キャを揶揄する風潮

     

    まず「陰キャを自虐する風潮」を考える。

     

    陰キャを自虐する人びとは、

     

    「自分は陰キャだから云々」と精神的なダメージを受ける。

     

    本来「陰キャ」と「陽キャ」は相対的なものなのに、自らその不利な図式に賛成し、自らの首を締めているのだ。

     

    次に「陰キャを揶揄する風潮」であるが、これがこの社会病を説明する鍵となる。

     

    「陰キャを揶揄する風潮」は、一見いじめと同じ構造に見えるが、実は全然違う。

     

    通常のいじめでは、「『強い者』が『弱い者』に危害を加える」という構造がある。

     

    当然「陰キャを揶揄する風潮」においても、「『陽キャ』が『陰キャ』に危害を加える」という構造は存在する。

     

    しかしそれに加えて、「『陰キャ』が『陰キャ』に危害を加える」という構造が根強く存在していることが重要である。

     

    < 俺は陰キャだ。お前も陰キャだ。俺もお前もダメなヤツだ。 >

     

    という感じである。

     

    つまり陰キャ同士で「陰キャはダメである」という価値観を陰キャ同士でループさせているのだ。

     

    そこに外野から少なからず「陰キャはダメだ」という批判が入ったとき、「陰キャグループ」にはその批判に抵抗する力が無く、グループ内ですでに回っている負のループをさらに強化するほかないのである(図2)。

     

     

    (図2:陰キャ同士で攻撃しあい、負のループを回しているところに、外野からの攻撃が入ることで、ループが加速する)

     

    本来被害者であるはずの陰キャが、被害の原因である「性格陰陽論」に賛成し、お互いにお互いの精神状態を悪くしている。

     

    そこに外力が加わることで、さらにそれを悪化させている。

     

    また、もともと静的な性質を持つ「陰キャ」が、一致団結してこのループを断ち切り、外野の攻撃を排除するようなことは期待できない。

     

    これではどうしても「性格陰陽論」の危険成分を排除できない。

     

    さてこの病理はどうしたものか。

     

    以上。

     

    ※ネタです

     

    参考文献

    [1] https://www.jstage.jst.go.jp/article/ryodoraku1968/24/12/24_12_312/_pdf/-char/ja